東芝のTOB

東芝のTOB
Photo by Yiorgos Ntrahas / Unsplash

今日、東芝のTOBが成立した。記事にも記載の通り、年内に上場廃止となる見通しだ。

東芝へのTOB成立、約79%が応募 年内に上場廃止へ - 日本経済新聞
東芝は21日、日本産業パートナーズ(JIP)など国内連合によるTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。株主による応募比率は78.65%となり、成立に必要な66.7%を上回った。株主総会などの手続きを経て、年内にも上場廃止となる見通し。不正会計や巨額損失に加えて、物言う株主(アクティビスト)との対立など経営混乱が長引いていた。JIP陣営の傘下で再生を目指す。TOBは1株4620円で8月8

戦後の高度経済成長期で世界を代表するメーカーとなった東芝。東芝に限らず、多くの企業戦士が「24時間、戦えますか?」の精神で昼夜身を粉にして働いた。自分の父も、東芝ではないが日本の大企業で定年まで勤めあげた企業戦士の一人だ。ずっと残業続きで、幼いころは自分が布団に入るまでに帰宅してきたことは数えるほどしかない。

そんな戦後日本経済の幕引きを象徴するような、あるいはバブル崩壊以後の「失われた30年」を象徴するような、今回のTOB。あの頃の「今日頑張ればきっと明日はもっと良い日になる」と信じることができた時代がやってくることはもはやないのだろうか。

マッチするつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

これは寺山修司が終戦後の横浜で詠んだ句とされる。太平洋戦争で父を亡くした寺山の、国民国家というイデオロギーに対する素朴な疑問。己の命を投げ打ってまで守りたい祖国などあるのだろうか?いや、ない。という反語表現が読者の心にもずしりとのしかかる。

命を投げ出してまで守るほどの祖国などないのだとしたら、命を投げ出してまでやるほどの会社や仕事もまた存在しないのかもしれない。「仕事のために人生の大部分を犠牲にするのなんて『コスパ』が悪いよね。」という声を耳にすることも増えてきた。

一方で、東芝をはじめとする日本の企業戦士が会社のために身を粉にして働き、それがこの国の繫栄の礎となったこともまた事実といえよう。少なくとも、自分が生まれてから特に不自由もなく、生命の安全を脅かされることもなく生きてこられたのも、少なからずそうした皆様のおかげだ。

たしかに命を投げ出してまで頑張る必要はないかもしれない。それでも、東芝のような世界を代表する企業をこの国から再び生み出せるよう、「今日頑張ればきっと明日はもっと良い日になる」と信じることができる時代が再び訪れるよう、自分がやるべきことをやりきろうという想いを新たにした。