ビジネスにおけるテクノロジーの本質に関する仮説
個人的に、ビジネスにおけるテクノロジーの意義は、売上の増加ではなくコストの減少にあると思う。
例えば、ECサイトを活用する小規模事業者を考えてみる(「山田商店」とでも呼ぼう)。山田商店はこれまで地域に根ざした小売事業者だったが、ShopifyをはじめとするECサービスの登場により、世界中に販路を拡大することができた。これにより、これまで地域経済に閉じていた価値提供の範囲が、地域どころか国境を超えるまでになった。
ここまで書くと、「それってつまりテクノロジーの力で売上が増えたってことじゃないの?」と思うだろう。しかし、考えてみると、ECサイトが登場する以前であったとしても、山田商店はやろうと思えば海外展開ができた。単に、海外展開に必要な投資の採算が合わなかっただけの話だ。すなわち、ECサイトの登場により、海外の顧客に対する販売コストが著しく低減した結果、オンライン上での海外販売の採算が合うようになったということだ。
ECサイトはまだ良い方で、これが業務管理系のSaaSになるとこの傾向はより顕著になる。顧客サイドの最大の関心事は既存のコストと比較してどれだけ安くなったかであり、畢竟セールストークもコスト削減を念頭に置いたものにならざるを得ない。
ここまでの話を元に、改めてテクノロジー企業の経営者の目線に立った時、テクノロジー企業が対象とするマーケットが非常に限定的であることに気づくだろう。つまり、当該企業が対象としている市場はクライアントの販管費予算のうち、システム利用料というごく少額部分を狙うことになる。山田商店の事業におけるコストの大多数は商品の仕入原価や製造原価、人件費などのはずで、そこに占めるECサイト使用料への投資枠は限られたものであることは想像に難くないだろう。
勘違いしてほしくないのは、SaaSが儲からないという主張をしたいわけではなく、あくまでも誰のどの財布を狙ってビジネスを行うかを考えることが重要であるということだ。VCからのエクイティ調達を前提とするテクノロジー企業を作るのであれば、最初からグローバルで戦える市場(財布の大きさと数が多い市場)か、toCビジネス(財布の数が膨大かつ商材によっては財布の大きさもそれなりにある)を狙うのが良いのではないだろうか。