勝者総どりはSaaSでも

勝者総どりはSaaSでも
Photo by Fauzan Saari / Unsplash

Paveという報酬管理SaaSがある。賃金、厚生年金、株式報酬など従業員の報酬を一元管理する業務システムとしての役割はもちろんのこと、業界平均との比較分析も実施できるようだ。こちらのポストでも、競争力のある報酬水準を把握することで採用時の内定承諾率が上がる効果が報告されている(あくまで体感で、ということのようだが)。

SaaSがこのように業界全体の動向を分析し、意思決定を支援する機能を提供するようになれば、当然ユーザーは当該SaaSに流入する。結果的に、プラットフォームのように"winner-take-all"(勝者総どり)の様相を呈することになるだろう。

しかし、グローバルで主流のSaaSであっても、日本では言語の障壁があるため参入できないケースは少なくない。件のPaveもまさにそのひとつだ。そうした環境下では独自のエコシステムが形成されていくことは一般にガラパゴス化と呼ばれている。真偽は定かではないものの、ガラパゴス化という言葉は2004年から使われ始めたようだ。あれから約20年が経ち、その傾向は今後ますます加速していくように思われる。

あるSaaSがプラットフォームとしての性質を帯びるようになると、次のフェーズは当然金融への参入である。SaaSに限らず業務管理ツールの主要な参入障壁はスイッチングコストであるが、これにはいくつか段階がある。最初は、「ベンダーロックイン」と言われるような、そのツールを導入することで業務プロセスが固定化され、当該ツールなしには業務が回らない状態である。次が、Paveにおける分析機能のように、企画段階におけるロックインだ。業務プロセスというのは一定の頻度で見直しや改善がなされるのが常であるが、見直しを行う上での企画段階における基本機能を提供することで、さらにそのツールへの依存度が高まる。最後が決済へのロックインだ。例えばRBFのような業務データから将来のキャッシュフローを予測する仕組みが普及することで、利用企業は機動的な資金調達が可能になる。ここまで来るとツールを使っているかどうかによって企業価値にダイレクトに影響が出るため、そのツールをリプレイスするかどうかは企業にとって大きな意思決定になる。

この第3段階における予測モデルの精度は学習データの量と相関するため、利用企業が多いサービスほど高精度なモデルを構築できる。すなわち利用企業にとっては、多くの企業に利用されているサービスを使うインセンティブがますます高まるということになる。こうして企業は「勝者」のサービスに流れていくわけだが、そのペースはべき乗則に従うため、最初は徐々に流れていくように見えても気づいた時にはとてつもない速度で2位以下との差が開くことになる。なお、べき乗則についての記事は以下を参照されたい。

3連休の振り返り
この3連休ではピーター・ティールについて学びを深めた。彼の語るスタートアップ実践論は昨今の潮流と逆行するところが大いにあるが、だからこそ学ぶべきところがある。逆張りが良い場合もあれば、そうでない場合もある。結局、「Aの方が主流だから」という論拠に基づいて下した意思決定は脆く、再現性がない。使い古した言い回しになるが、自分の頭で考えて判断するしかない。 ここでも「Power Law(べき乗則)」に出会った。ベンチャー・キャピタル(VC)における各ポートフォリオ企業が生み出すリターンはべき乗則に従うということだが、このべき乗則は実社会でありふれているように思う。特にいま目覚ましい速度でべき乗則の…

RBFが世に出てまだ日は浅く、べき乗則の差が目に見えるようになるまで時間はかかるだろう。こちらの記事を読むとSaaSでは独占は起こりづらいとの定説があり、上述の自分の考えとはやや異なる。結果が出るのを楽しみにしつつ、それまでにもう少し思考を整理したい。